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京都地方裁判所 昭和58年(レ)51号 判決 1984年7月19日

控訴人 株式会社大信販

代表者代表取締役 平野一雄

控訴人補助参加人 西荘株式会社

代表者代表取締役 西村荘一

訴訟代理人弁護士 植松繁一

被控訴人 中井金三郎

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人は控訴人に対し、金三二万九二二〇円と、内金三二万一八一〇円に対する昭和五八年一月八日から支払ずみまで年二割九分二厘の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は、第一、二審(参加の費用を含む)とも被控訴人の負担とする。

四、この判決の第二項は、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、控訴の趣旨

主文第一ないし第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言。

二、控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、本件請求の原因事実

(主位的請求)

1. 控訴会社は割賦購入斡旋を、控訴人補助参加人西荘株式会社(以下西荘という)は呉服卸売を、それぞれ業とするものであり、田中商店こと訴外田中孝子は、西荘から呉服を仕入れて販売する小売業者である。

2. 控訴会社、西荘及び田中孝子は、田中孝子が顧客に対して行う割賦販売について、顧客の依頼を受けて、控訴会社が西荘に対して売却代金を立て替えて支払い、西荘は、その代金から田中孝子に対する卸売代金を控除した金額を田中孝子に支払うことを約束した。

3. 控訴会社は、昭和五七年六月二〇日(以下月日で記載したときは、昭和五七年のことである)、被控訴人との間で、次の内容のショッピングクレジット契約を締結した。

(一) 被控訴人が田中孝子から購入した呉服代金の内金三八万円を、控訴会社が一括して立替払いをする。

(二) 立替手数料は、金四万九四〇〇円とし、次の立替金分割金とともに毎回金二四七〇円宛支払う。

(三) 立替金は、七月末日を第一回として、以後二〇回にわたり、毎月末日限り、金一万八九三〇円宛に分割して支払う(ただし、第一回目は金二万〇三三〇円)。

(四) 被控訴人が立替金の支払を遅滞し、控訴会社から二〇日以上の相当の期間を定めて書面で催告されたにもかかわらず、指定期日までに支払わなかったときは、被控訴人は、残金につき、当然に期限の利益を失う。

(五) 遅延損害金は、年二割九分二厘の割合とする。

4. 仮に、被控訴人本人は本件ショッピングクレジット契約を締結しなかったとしても、被控訴人は、田中孝子の従業員の訴外大森雅夫から、田中孝子の呉服を買い受けたことにしてショッピングクレジット契約を締結するのに被控訴人の名前を使わせて欲しいとの依頼を受けて、これを承諾し、大森雅夫は、その承諾に基づいて被控訴人の名義を用いて本件ショッピングクレジット契約を締結した。したがって、被控訴人は、大森雅夫を代理人として、控訴会社との間で本件ショッピングクレジット契約を締結したものというべきである。

5. 控訴会社は、六月二〇日、本件ショッピングクレジット契約及び2項の契約に基づき、西荘に対し、呉服代金三八万円を立て替えて支払った。

6. 被控訴人は、控訴会社に対し、第一ないし第三回分の立替金合計五万八一九〇円及び立替手数料合計金七四一〇円を支払ったが、その後の支払をしなかった。そこで、控訴会社は、被控訴人に対し、一二月一八日到達の書面で、昭和五八年一月七日までに第四、五回分の立替金、立替手数料及びこれらに対する遅延損害金並びに催告費用、以上の合計金四万四三三〇円を支払うよう催告したが、被控訴人はその支払をしなかった。したがって、被控訴人は、昭和五八年一月七日の経過により期限の利益を失った。

(予備的請求)

仮に、田中孝子と被控訴人との間の本件呉服の売買契約が仮装のため無効であり、それに基づく被控訴人と控訴会社との間の本件ショッピングクレジット契約もまた無効であるとしても、被控訴人は、あたかも売買契約が有効に成立しているかのように装って、控訴会社に対して本件ショッピングクレジット契約の締結を申し込むことによって、控訴会社を欺罔し、これを信じた控訴会社をして西荘に対し立替金三八万円を支払わさせて、控訴会社にこれと同額の損害を与えるとともに、手数料及び遅延損害金相当額の得べかりし利益を喪失させた。

(結論)

控訴会社は被控訴人に対し、金三二万九二二〇円及び内金三二万一八一〇円に対する昭和五八年一月八日から支払ずみまで約定利率年二割九分二厘の割合による金員の支払を求める。

二、被控訴人の答弁

本件請求の原因事実はすべて否認する。

被控訴人は、田中孝子から呉服を購入したことはないし、控訴会社との間で本件ショッピングクレジット契約を締結したこともない。

第三、証拠<省略>

理由

一、控訴会社が割賦購入斡旋を、西荘が呉服卸売を、それぞれ業としており、田中商店こと田中孝子が西荘から呉服を仕入れて販売する小売業者であること、控訴会社、西荘及び田中孝子は、田中孝子が顧客に対して行う割賦販売について、控訴会社が西荘に対して、売却代金を立て替えて支払い、西荘は、その代金から田中孝子に対する卸売代金を控除した金額を田中孝子に支払う旨の約束をしていたこと、以上のことは、<証拠>によって認めることができ、この認定に反する証拠はない。

二、控訴会社と被控訴人間の本件ショッピングクレジット契約の成否について判断する。

1. 本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、被控訴人が、自ら控訴会社と本件ショッピングクレジット契約を締結したことが認められる証拠はない。

2. そこで、被控訴人が、代理人大森雅夫を通じて控訴会社と本件ショッピングクレジット契約を締結したかどうかについて判断する。

(一)  <証拠>によると、次の事実が認められ、この認定に反する同結果の一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(1)  控訴会社は、五月二九日、西荘を通じて、田中孝子が被控訴人に販売する呉服の代金三八万九〇〇〇円中三八万円について立替払契約(本件ショッピングクレジット契約)を締結したい旨の申込を受けた。

(2)  そこで、控訴会社の従業員訴外奥田正一は、五月三一日午後七時一三分ころ、その意思を確認するため、被控訴人の自宅へ電話をかけたところ、被控訴人が電話口に出て応対した。奥田正一は、被控訴人に対し、前記申込によって作られた決裁申請書(甲第二号証)に基づき、その氏名、居住関係、家族関係、勤務先及び呉服購入の事実等について確認し、さらに、本件ショッピングクレジット契約における立替金の額や支払方法を話したところ、被控訴人は異議を述べなかった。

(3)  控訴会社は、右の電話によって被控訴人の意思が確認されたので、本件ショッピングクレジット契約の申込を承認することとし、六月一日、この旨を西荘に通知した。

(4)  その後西荘から控訴会社に対して送付された本件ショッピングクレジット契約書(甲第一号証)には、被控訴人の氏名、住所、職業、生年月日、自宅の電話番号、勤務先等が記載されているが、その内容は、勤務先の住所の一部を除いてすべて正確であった。また、契約の内容は、本件請求の原因事実3の(一)ないし(五)のとおりであった。

(5)  本件ショッピングクレジット契約は、その後八月から一〇月まで、約定どおり立替金及び立替手数料の支払がなされた。

しかし、その後の支払が遅滞したため、控訴会社の従業員訴外橋本幹雄は、一一月一〇日午後八時四五分ころ被控訴人の自宅に電話をかけてその支払を催促したところ、被控訴人は、はじめて、「かねてからの知り合いである大森雅夫から、迷惑はかけないからと頼まれて名前を貸した。控訴会社から電話があればハイハイと答えておいてくれ、振込用紙がきたら二、三回支払っておいてくれ、三回目までに金を持参すると言われたので承諾して、第三回目までの立替金及び立替手数料を支払った。しかし、大森雅夫が行方不明になってしまったのでこれ以上支払うつもりはない。」などと述べて事の真相をうちあけた。

(6)  橋本幹雄は、同月二〇日午後七時五五分ころにも、被控訴人の自宅に電話をかけたが、被控訴人は、その時も、大森雅夫に対する名義貸の事実を認めた。

(7)  大森雅夫は、田中孝子の下で、呉服の販売を行っていた者である。

(二)  以上認定の事実によると、被控訴人は、田中孝子の従業員の大森雅夫に頼まれて、被控訴人が田中孝子から呉服を購入したことにして控訴会社からその代金の立替払いを受けるのに自分の名前が使用されることを承諾し、その為に必要な書類を大森雅夫が作成することを黙示的に了承した上で、控訴会社がした確認の電話に対しても、右呉服購入の事実等を認め、第三回目まで立替金及び立替手数料を控訴会社に支払ったことが明らかである。

このような場合には、被控訴人は、大森雅夫に対し、大森雅夫が被控訴人の名前を使用して本件ショッピングクレジット契約を締結するについて、包括的な代理権を与えたといえるから、大森雅夫が、本件ショッピングクレジット契約書である甲第一号証に直接被控訴人名義の署名捺印をしたことは、被控訴人から与えられた包括的代理権に基づく適法な行為であり、その法律上の効果が、被控訴人に帰属することは、いうまでもない。

したがって、被控訴人には、控訴会社が立て替えた代金を本件ショッピングクレジット契約の内容に従って、控訴会社に返済する法律上の義務があることに帰着する。

三、控訴会社が、本件ショッピングクレジット契約及び一項認定の契約に基づき、西荘に対し金三八万円を立替払いしたこと、被控訴人が立替金残額について期限の利益を失ったこと、以上のことは、<証拠>によって認められ、この認定に反する証拠はない。

四、むすび

以上の次第で、被控訴人は、控訴会社に対し、立替代金残金及び立替手数料合計金三二万九二二〇円と、内金三二万一八一〇円(立替代金残金)に対する昭和五八年一月八日から支払ずみまで年二割九分二厘の割合による約定遅延損害金を支払わなければならないから、この支払を求める控訴会社の本件請求は正当であり、これを棄却した原判決は失当である。

そこで、原判決を取り消して本件請求を認容することとし、民訴法九六条、八九条、九四条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小田耕治 長久保尚善)

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